ホークス物語78

99年の初優勝直後、ホークスに激震が走った。エース工藤のFAである。

この年、最優秀防御率・最多奪三振を獲得、日本シリーズでも初戦完封で日本一の流れを決定づけた工藤だが、親会社・ダイエーは阪神大震災の影響で経営危機が叫ばれていた。年俸予算を抑えないといけない。

事情を正直に話せば、工藤も理解しただろうが、高塚球団代表はテクニックに走った。『今年から新査定方式をい入れ、年俸は上げられない。工藤君の登板日は客の入りが悪い。それも大きな要因だ。』と、無茶な放言までしていた。

『博多の街は大好きだし、当初、移籍の気持ちは無かった』と話していた工藤も、これでは怒るのも無理はない。

問題を益々こじらせたのは、この後の高塚代表の対応だった。工藤とのやり取りを、球団サイトで懲罰的に公表。その中には、実際のやり取りではない虚偽の記載もあった。この交渉状況の公表は、ファンからの猛抗議で２時間半後に削除されたが、当然の事ながら工藤は激怒した。

虚偽内容の公表は、両者の関係の火に油を注ぐことになり、もはや修復不可能な所まで行ってしまった。
　
『もう移籍するしかない』

11月8日、工藤はファンに対して『感謝の気持ちと移籍の決断』のメッセージを発表した。中日やメジャーからも声がかかったが、12月14日、巨人への移籍が決まった。

移籍に際し、福岡では17万3000人の残留を願う署名が集まった。工藤は、その一人一人に感謝の手紙を何と『直筆』で書いた。全部返すのに、７年かかったという。

2015年、工藤は監督として帰ってきた。宮崎キャンプの初日、ファンは『おかえりなさい』ボードを掲げ、万来の拍手と大歓声で迎えた。

高塚代表が、16年前引き裂いた工藤とファンの絆は、決して切れたりせず、ずっと繋がっていたのだ……