ホークス物語74

デーブ大久保氏は、『日本一練習量が多かったのは、秋山幸二さんだと思う』と言っている。

野球をやっていなかったら、五輪の十種競技に出ていただろうと言われる身体能力があり、その上、日本一の練習量。西武の黄金時代を支えた三番打者は、オールスターに18年連続でファン投票選出されている。94年のトレードでホークスにやってきた。根本さんからは『王監督を優勝させてやってくれ』と頼まれた。

ダイエーに来て一番驚いたのは、選手たちに『勝ちたい』という意識が感じられない事だった。控室でも、将棋などで遊んでいる。緊張感に溢れていた西武とは雲泥の差であった。

『このムードを変えないと』秋山は、黙々と練習した。 誰よりも早く球場入りし、皆が帰るまでバットを振り続けた。彼に小久保・松中らがついてきて、少しづつホークスは今の猛練習の習慣をつけていった。その練習習慣が、その後、12球団で最も沢山練習するホークスの基礎となった。

99年９月８日、勝てば首位という西武との福岡決戦。２回裏松坂の速球が抜け、秋山の顔面を直撃、満員のドームは悲鳴に包まれた。そのままタンカで退場した秋山は救急車で近くの病院に搬送される。

試合が3-3のまま終盤を迎えたその時、何と、左頬を骨折した秋山がベンチに戻ってきた。顔面には大きな絆創膏が貼られていた。 　　

この状況で燃えない選手はいないだろう。9回裏、満塁のチャンスを作り打席には愛弟子の井口。打球は、センターバックスクリーンに飛び込むサヨナラ満塁本塁打になり、ホークスは再び首位に立った。
　
秋山は、その後、一番打者として復帰。優勝決定試合で先頭打者ホームラン。日本シリーズでも活躍して、最高齢ＭＶＰに輝いている。
　　
日本一練習する男は、チームも日本一練習するチームに導き、そして、根本さんとの約束通り、王監督を胴上げした。

引退後もコーチ・監督として何度もチームに栄冠をもたらせる大貢献。 秋山氏には『ホークスに来てくれて本当にありがとう』と改めて伝えたい……