八王子のヒマ鷹 (ID:MzY2OTd)
南海ホークス物語㊼

昭和63年元旦、中百舌鳥の実家に帰っていた私は、テレビの正月番組にも飽き、家の近くを散歩していた。あたりは正月らしく、冷たく澄んだ空気が漂い平和で静かな街並みが続いていた。

暫く歩くと遠くから「カーン!カーン!」と乾いた音が聞こえてくる。中百舌鳥球場の方向である。近づいてみると、音は球場の室内練習場からのものであった。

「元旦から練習している選手がいるんだ!」驚いた私は、室内練習場の中をそっと覗いてみた。22歳の佐々木誠と、23歳の畠山準であった。二人は、マシン相手に黙々と打撃練習を繰り返していたのだ。佐々木は前年センターのポジションを取ったばかり、畠山は投手生命に終止符を打ち、そのオフから打者転向を発表していた。

練習に一区切りがつき、煙草を吸いに外に出てきた二人に声をかけてみた。「元旦から練習とは、立派やねえ。」佐々木「正月に休んでられる身分や無いんで。」畠山「家に帰っても、寝てるだけですから。」気持ちよさそうに煙草を吸う二人の頬からは、玉の様な汗がしたたり落ちていた。

「この二人は、きっと良くなる」そう確信したものだ。 私はと言えば当時30歳。会社生活にも慣れが出て、気の合わぬ上司の事を実家の母に愚痴っては「あんな上司の下では、やる気は出んわ。」と、ぼやいていた頃である。そんな時、歳下の野球選手が元旦から必死に努力する姿を見せつけられたのだ。まだまだ甘い自分に、ハッと気づかされ赤面したのを覚えている。

その後、佐々木はグングン実力をつけ、首位打者や盗塁王を獲得。メジャーのエース・ハーシュハイザーからホームランするなど「メジャーに一番近い男」と言われた。畠山も、横浜移籍後はクリーンアップを任され、巨人戦で度々、劇的な一発を打つなど一時代を築くことになる。

私には、今でも正月になると、あの澄んだ空気を切り裂く「カーン!カーン!」という音が聞こえてくる。

「自分に甘えるな」と、私を叱咤激励してくれる音である……
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