南海ホークス物語㊶
野村解任に踏み切った南海球団は、問題がこれ以上燃え広がらない様にマスコミに釘を刺す。記者クラブに、本件の窓口を球団広報に一本化し、関係者への取材を自粛するよう要望してたのだ。
最下位球団を引き継いだ監督としては、成績面は解任理由に当たらない。スター監督を切った球団の「自己防御」措置だった。
そして迎えた阪急・巨人の日本シリーズ。ノムさんのシリーズ解説は、読者が楽しみにしている名物コーナーだ。そんな所にまで、球団による「自粛要望」が行われた。テレビの解説は勿論、新聞のコラム記事まで、マスコミ各社に球団から「野村氏への出演・出稿依頼については、良識で判断してください。」と介入して来た。
マスコミ各社は、野村解説を断念する。そんな中で、1社だけ敢然と解説掲載に踏み切った新聞社があった。サンケイスポーツである。「ノムラの考え」という日本シリーズのコラムを、強行掲載したのだ。
南海球団はこれに激怒。報復措置として、野村後任の広瀬内閣のコーチ人事等の情報提供先から、サンスポを抜く等の対抗措置を取る。およそ大人げない対応だ。
「読者が楽しみにしていた。ファンの気持ちを大切にしたまで。」決断を下した当時のサンスポ・デスクは語っている。
「自社の立場が悪くなる事が分かっているのに、私の解説を掲載してくれたサンスポは、以来、私の中で『特別な存在』になった。「ノムラの考え」は、私が死ぬまで書かせて頂くことになると思う。」
同コラムは、以降50年以上続いた。
武士の心、武士のみぞ知ると言う事か……