南海ホークス物語㊾
斉藤和巳21、和田38、摂津14、山内孝徳106。これは生涯の完投数である。無四球試合数は、和巳5、和田9、孝徳が28。長期低迷時代のエースが、いかに凄い投手であったか御理解頂けると思う。 「バックの守備力と、打線の援護があれば、彼は200勝していた筈だ。それくらいの投手だった。」落合の評価である。
孝徳は、非常にキップの良い選手でもあった。完投勝利を飾ると必ず、自分のグラブを観客席に投げ入れた。それが、いつも同じところに投げ入れるので、私の友人などは実に3個も彼のグラブを持っていた(笑)。
後輩の面倒見もよく、藤本修二や畠山、加藤といった若手にアドバイスしていた姿も記憶に残っている。 杉浦監督就任時、捕手のドカベン香川が不摂生で、体重が130キロを超え、盗塁阻止率が1割台に低迷していた。投手陣は悲鳴を上げ、誰も彼とバッテリーを組みたがらない。
打撃面、営業面を考えると、球団や首脳陣はドカベンを捕手として使いたい。そんな時、手を挙げたのが、やはり山内孝徳であった。「俺の時は香川でええですよ。盗塁させんかったらええんでしょ。」
走者に隙を見せないセットポジションを工夫する中で、「ノールック投法」を完成させる。捕手を見ずに、走者を見ながらホームに投げるという驚異的なピッチングスタイルだ。
世界の盗塁王福本が、「牽制の一番上手い投手は東尾、一番隙のない投手は山内孝徳」と話していたことがある。現に、捕手香川でも、殆ど盗塁出来なかったという。「ノールック投法」は、いまだに他の投手では見たことがない。
熊本出身のこの投手は、それ程、凄かった。単なる『酔っ払い解説』の髭おやじではない(笑)
今の守備陣や打線をバックに、投げさせて上げたかった……