南海ホークス物語�F

「努力の人」が野村なら、「天賦の人」は広瀬だろう…… 歴代２位の生涯596盗塁、盗塁成功率9割5分、31機会連続盗塁成功（周東が破るまでの日本記録）、……東映戦のある試合で嵯峨投手は、広瀬の盗塁を警戒し、13球連続して牽制したが(これは世界記録と言われている)、次の投球で、やはり盗塁された。

世界の盗塁王福本は「記録では僕だが、本当の盗塁力では広瀬さんは神様的存在…」と話している。ノムさんも「長いプロ野球の歴史で天才と呼べるのは、長島と広瀬とイチローの３人」と公言している。……本人の弁を借りると若い頃は「自分では殆ど練習しなかった」のだとか……天才肌の選手らしく、チャンスには滅法強いが、試合の勝敗に関係のない所では、凡プレーが多かった。

昭和37年の阪急戦で、エース米田から5打数5安打し、決勝打も放った。「次の試合も当然スタメン……」と思っていた広瀬を、翌日のダブルヘッダー第一試合、鶴岡監督がベンチに下げた……試合後、悔し涙を流す広瀬に「どうや？試合に出られない選手の気持ちが分かったやろ？…第二試合はスタメンや。思いきり行け！」と話したと言う。 これを聞いた広瀬は胸を熱くし、心を入れ換えて練習に励む様になったと言うのだ。

その後、昭和38年には、腱鞘炎で欠場する8月末まで、4割を打ち、これは今でもパリーグ記録だ。生涯2157安打、殿堂入りの大選手に成長した。

天才打者は、天才打者なりの育て方があるようだ……